ペップのお気に入りではなかったのだ。
バイエルンのファンにとって、それはアイデンティティの喪失だった――。
バスティアン・シュバインシュタイガーの退団は、単なる選手ひとりの流出ではない。ドイツマイスターを8つ、ビッグイヤーをひとつもたらしたクラブの象徴を、ファンは失ったのだ。
30歳の元副キャプテンが求めた新天地は、マンチェスター・ユナイテッド。ルイス・ファン・ハール監督が、かつてバイエルンで指導したこの愛弟子を中盤の新リーダーとして熱烈に望み、その熱意をシュバインシュタイガーは意気に感じた。移籍金は推定1800万~2000万ユーロ(約25億2000万~28億円)だ。
手放した側のペップ・グアルディオラは、素っ気なかった。
「私は彼に言った。『君の好きなようにしなさい。君が幸せなように』と。監督として彼を指導できたのは、とても光栄なことだった」
グアルディオラはそう望みさえすれば慰留できたはずだ。しかし、そうしなかった。シュバインシュタイガーはペップの「お気に入り」ではなかったのだ。
本人はこう思ったはずだ。ドイツ代表キャプテンとして、EURO2016までの1年間をベンチで過ごすのは耐えられない。苦しみの時間を強いられるのなら決別したほうがいい、と。
だからバイエルンの首脳陣も彼を行かせたのだ。起用法などをめぐるトラブルを未然に防ぐために。
こうしてシュバインシュタイガーは旅立っていった。「新しい挑戦が楽しみだ」と言い残して。
残されたのは、悲しむサポーターとチームメイトだ。
キャプテンのフィリップ・ラームは、「とても残念だ」と別れを惜しんだ。
本拠地アリアンツ・アレーナでのシーズンオープニングセレモニーで、この移籍を公表したカール=ハインツ・ルムメニゲCEOにはサポーターのブーイングが降り注ぎ、練習場には放出に抗議するバナーが貼られた。
もっとも、バイエルンにとってシュバインシュタイガーの退団は戦力的に致命的なダメージかと言えば、そうでもないだろう。中盤センターは質・量ともに豊富で、事実、昨シーズンの大半をシュバインシュタイガーは怪我で欠場した。
いずれにしても、突然すぎる別れだった。昨シーズンのブンデスリーガ最終節でシュバインシュタイガーはゴールを決めた。そのマインツ戦は、彼にとってバイエルン通算500試合目だった。
まさかそれが、最後の試合、最後のゴールになるなんて……、誰も夢にも思わなかった。
【記者】
Patrick STRASSER|Abendzeitung
パトリック・シュトラッサー/アーベントツァイトゥング
1975年ミュンヘン生まれ。10歳の時からバイエルンのホームゲームに通っていた筋金入りで、1998年にアーベントツァイトゥングの記者になり、2003年からバイエルンの番記者を務める。2010年に上梓した『ヘーネス、ここにあり!』、2012年の『まるで違う人間のように』(シャルケの元マネジャー、ルディ・アッサウアーの自伝)がともにベストセラーに。
【翻訳】
円賀貴子
バスティアン・シュバインシュタイガーの退団は、単なる選手ひとりの流出ではない。ドイツマイスターを8つ、ビッグイヤーをひとつもたらしたクラブの象徴を、ファンは失ったのだ。
30歳の元副キャプテンが求めた新天地は、マンチェスター・ユナイテッド。ルイス・ファン・ハール監督が、かつてバイエルンで指導したこの愛弟子を中盤の新リーダーとして熱烈に望み、その熱意をシュバインシュタイガーは意気に感じた。移籍金は推定1800万~2000万ユーロ(約25億2000万~28億円)だ。
手放した側のペップ・グアルディオラは、素っ気なかった。
「私は彼に言った。『君の好きなようにしなさい。君が幸せなように』と。監督として彼を指導できたのは、とても光栄なことだった」
グアルディオラはそう望みさえすれば慰留できたはずだ。しかし、そうしなかった。シュバインシュタイガーはペップの「お気に入り」ではなかったのだ。
本人はこう思ったはずだ。ドイツ代表キャプテンとして、EURO2016までの1年間をベンチで過ごすのは耐えられない。苦しみの時間を強いられるのなら決別したほうがいい、と。
だからバイエルンの首脳陣も彼を行かせたのだ。起用法などをめぐるトラブルを未然に防ぐために。
こうしてシュバインシュタイガーは旅立っていった。「新しい挑戦が楽しみだ」と言い残して。
残されたのは、悲しむサポーターとチームメイトだ。
キャプテンのフィリップ・ラームは、「とても残念だ」と別れを惜しんだ。
本拠地アリアンツ・アレーナでのシーズンオープニングセレモニーで、この移籍を公表したカール=ハインツ・ルムメニゲCEOにはサポーターのブーイングが降り注ぎ、練習場には放出に抗議するバナーが貼られた。
もっとも、バイエルンにとってシュバインシュタイガーの退団は戦力的に致命的なダメージかと言えば、そうでもないだろう。中盤センターは質・量ともに豊富で、事実、昨シーズンの大半をシュバインシュタイガーは怪我で欠場した。
いずれにしても、突然すぎる別れだった。昨シーズンのブンデスリーガ最終節でシュバインシュタイガーはゴールを決めた。そのマインツ戦は、彼にとってバイエルン通算500試合目だった。
まさかそれが、最後の試合、最後のゴールになるなんて……、誰も夢にも思わなかった。
【記者】
Patrick STRASSER|Abendzeitung
パトリック・シュトラッサー/アーベントツァイトゥング
1975年ミュンヘン生まれ。10歳の時からバイエルンのホームゲームに通っていた筋金入りで、1998年にアーベントツァイトゥングの記者になり、2003年からバイエルンの番記者を務める。2010年に上梓した『ヘーネス、ここにあり!』、2012年の『まるで違う人間のように』(シャルケの元マネジャー、ルディ・アッサウアーの自伝)がともにベストセラーに。
【翻訳】
円賀貴子