持ち前の攻撃参加は「回数よりもタイミング」。空気を読んで仕掛ける。
元来の目立ちたがり屋でムードメーカー的なイメージが先行しがちだが、槙野智章のアスリートとしての最近の進化と変貌ぶりには目をみはるものがある。
もっぱら普段はサッカー漬けの日々を過ごし、その成果として日本代表復帰も果たした。第2ステージの浦和のキーマンに挙げられ、東アジアカップでも日本代表の最終ラインに君臨するであろう男の知られざるストイックな一面に迫った。
※『サッカーダイジェスト』2015年7月23日号より抜粋
――◆――◆――
浦和は5-2の大勝で第1ステージの有終を飾った新潟戦から3日間のオフを挟み、新たなステージへの再スタートを切った。とはいえ、ここでほっと一息つくような選手は、ひとりもいない。
オフ明けの最初のミーティングで、ペトロヴィッチ監督からは次のような話があった。
「(第1ステージ優勝は)もう過去のこと。満足しているわけにはいかない。みんな一旦リフレッシュして気持ちを切り替えられたはずだ。ここからもう一度気持ちを高めていこう」
弛緩した空気は一切漂っていない。開幕からの連続無敗記録を17に伸ばして第2ステージにつなげたことも、士気を継続させるプラスの要因になっていた。
良い雰囲気だと、槙野は感じた。ピッチ上では最終ラインからチームを見守る背番号5は、こうしたミーティングの時、周りの様子にも気を配るという。
「年間を獲る(年間勝点1位と年間王者)という意思が統一されているから、みんなの顔つきからは気の緩みは一切感じられなかった。もしもこれから多少でも緩んだら、僕は声を張りますよ。そういった全体の雰囲気を感じて考えながら、取り組むようにはなりましたね」
「調子乗り世代」(07年のU-20ワールドカップに出場した、87年生まれ中心の日本代表メンバー)のなかでも調子に乗りやすいと自認するだけに、チーム全体の“ノリ”には敏感だ。ただ、プロ選手としてのキャリアを積む過程で、その“ノリ”は、ピッチ上の結果にいかにつなげるべきか――いつしか空気を読む勝負師の感覚となって備わっていった。
それは最近のプレーからも分かる。
ペトロヴィッチ体制1、2年目は、左ストッパーの槙野のオーバーラップは攻撃の生命線となっていた。彼が仕掛けないと、試合が動かないという状況が多々あった。ただし槙野が空けたスペースを突かれて失点を喫する――など、かなりのリスクを伴ったのは事実だった。
しかし第1ステージのゴールは1点のみ。槙野の見せ場とも言えた豪胆な攻め上がりは減り、後方支援にポイントを置くようになった。
「前線が万遍なくゴールを決めているのは(武藤8点、興梠7点、梅崎6点、ズラタン5点)、『全員攻撃』を掲げるウチらしくバランス良く攻められている証。だから彼らが点を取るためにも、自分がやたらに攻撃参加するより、質の高い縦パスを入れてスイッチを入れるところに、まず意識を働かせている。バランスを崩してまで僕が攻めていくケースは、前半戦は一度もなかった。それは良い傾向と言えるでしょう」
もちろん、それでも攻める機会は常に探っている。戦況に応じ、いつ、どのタイミングで行けばより多大な効果を得られるのか、そこも空気を読んでいるという。
「浦和らしい攻撃のリズムが取れているかどうかを感じながら、そこに自分がメリハリをつけようと考えている。だから回数よりもタイミング。これまで以上に頭を使って、賢くやろうとしています」
刻一刻と変わる試合の大勢を俯瞰しながら、左右のバランスや前線との距離感、対峙するウイングバックとの駆け引きを見極め、ここぞ! という時に敵陣へ突き進む。または、ハーフライン付近まで上がってぐっと留まり、同サイドでプレーする宇賀神や武藤のフォローに神経を注ぐ。そのようにして浦和の攻撃の「質」を高める一役を担っているわけだ。
もっぱら普段はサッカー漬けの日々を過ごし、その成果として日本代表復帰も果たした。第2ステージの浦和のキーマンに挙げられ、東アジアカップでも日本代表の最終ラインに君臨するであろう男の知られざるストイックな一面に迫った。
※『サッカーダイジェスト』2015年7月23日号より抜粋
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浦和は5-2の大勝で第1ステージの有終を飾った新潟戦から3日間のオフを挟み、新たなステージへの再スタートを切った。とはいえ、ここでほっと一息つくような選手は、ひとりもいない。
オフ明けの最初のミーティングで、ペトロヴィッチ監督からは次のような話があった。
「(第1ステージ優勝は)もう過去のこと。満足しているわけにはいかない。みんな一旦リフレッシュして気持ちを切り替えられたはずだ。ここからもう一度気持ちを高めていこう」
弛緩した空気は一切漂っていない。開幕からの連続無敗記録を17に伸ばして第2ステージにつなげたことも、士気を継続させるプラスの要因になっていた。
良い雰囲気だと、槙野は感じた。ピッチ上では最終ラインからチームを見守る背番号5は、こうしたミーティングの時、周りの様子にも気を配るという。
「年間を獲る(年間勝点1位と年間王者)という意思が統一されているから、みんなの顔つきからは気の緩みは一切感じられなかった。もしもこれから多少でも緩んだら、僕は声を張りますよ。そういった全体の雰囲気を感じて考えながら、取り組むようにはなりましたね」
「調子乗り世代」(07年のU-20ワールドカップに出場した、87年生まれ中心の日本代表メンバー)のなかでも調子に乗りやすいと自認するだけに、チーム全体の“ノリ”には敏感だ。ただ、プロ選手としてのキャリアを積む過程で、その“ノリ”は、ピッチ上の結果にいかにつなげるべきか――いつしか空気を読む勝負師の感覚となって備わっていった。
それは最近のプレーからも分かる。
ペトロヴィッチ体制1、2年目は、左ストッパーの槙野のオーバーラップは攻撃の生命線となっていた。彼が仕掛けないと、試合が動かないという状況が多々あった。ただし槙野が空けたスペースを突かれて失点を喫する――など、かなりのリスクを伴ったのは事実だった。
しかし第1ステージのゴールは1点のみ。槙野の見せ場とも言えた豪胆な攻め上がりは減り、後方支援にポイントを置くようになった。
「前線が万遍なくゴールを決めているのは(武藤8点、興梠7点、梅崎6点、ズラタン5点)、『全員攻撃』を掲げるウチらしくバランス良く攻められている証。だから彼らが点を取るためにも、自分がやたらに攻撃参加するより、質の高い縦パスを入れてスイッチを入れるところに、まず意識を働かせている。バランスを崩してまで僕が攻めていくケースは、前半戦は一度もなかった。それは良い傾向と言えるでしょう」
もちろん、それでも攻める機会は常に探っている。戦況に応じ、いつ、どのタイミングで行けばより多大な効果を得られるのか、そこも空気を読んでいるという。
「浦和らしい攻撃のリズムが取れているかどうかを感じながら、そこに自分がメリハリをつけようと考えている。だから回数よりもタイミング。これまで以上に頭を使って、賢くやろうとしています」
刻一刻と変わる試合の大勢を俯瞰しながら、左右のバランスや前線との距離感、対峙するウイングバックとの駆け引きを見極め、ここぞ! という時に敵陣へ突き進む。または、ハーフライン付近まで上がってぐっと留まり、同サイドでプレーする宇賀神や武藤のフォローに神経を注ぐ。そのようにして浦和の攻撃の「質」を高める一役を担っているわけだ。