【黄金世代】第4回・稲本潤一「2002年初夏、日本全土を揺るがす」(♯5)

カテゴリ:特集

川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)

2017年09月11日

あの左足の感触はいまでも残ってる。ホンマ、無我夢中でしたよ。

2002年日韓W杯、ベルギー戦。コンディションを不安視する雑音を一蹴し、稲本は圧巻のパフォーマンスを披露した。(C)REUTERS/AFLO

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 日本中がサムライブルーに染まっていた。
 
 フィリップ・トルシエ監督率いる日本代表の面々は、その喧騒とフィーバーをもちろん体感していたが、基本的に試合日以外は外に出ない日々。普段は静岡・袋井にある「葛城北の丸」を根城に静かな毎日を過ごし、来る決戦に備えていた。
 
 2002年日韓ワールドカップ。グループリーグ第3戦、チュニジア戦は、過去2試合の関東から離れ、大阪・長居スタジアムで開催された。稲本潤一にしてみれば故郷に錦を飾るではないが、かつてサッカー不毛の地と揶揄された地での大一番。当然、気合いが入ったという。
 
 そして2-0で勝利し、静岡へ戻るバスの中で信じられない光景を目の当たりにする。
 
「当時の代表の人気ってスゴかったやないですか。それこそ五輪代表のアジア予選でも、国立で徹夜組まで出て満員にしてくれる。それにずっと慣れてたから、ワールドカップでも驚きというのはなかった。でも、大阪はさすがにビックリしたかな。阪神が優勝してミナミがあんな風になるのはよく見てたけど、サッカーで、しかも代表の青一色になってたやないですか。感動しましたね。大阪でさえここまでなるんやと(笑)。誰も彼もがこっちを見て手を振ってくれた。なんかね、しみじみと嬉しかったですよ」
 
 トルシエジャパンでのレギュラーが確約されていた稲本だったが、大会前はコンディションを不安視する声が上がっていた。2001-02シーズンのアーセナルではもっぱらリザーブリーグが主戦場で、公式戦の出場はカップ戦の2試合のみ。試合勘がさすがに鈍っているのではないか。そんな見方が大勢を占めていた。
 
 だが稲本は、グループリーグ第1戦のベルギー戦で、驚異的なパフォーマンスを披露する。1-1で迎えた67分、相手ボールをカットして強引に持ち込み、左足で逆転弾を蹴り込んだ。じつに稲本らしい躍動感ある、ダイナミックなプレーだった。
 
「もう思いっきり行ってやろうって大会前から思ってた。後ろに戸田(和幸)くんがいましたからね。僕は戻るのは超遅いくせに、前に行くのだけはやたらと速かったりしたから、ある程度はチームの戦術の中でそこを活かしてもらえてた。イナは前に行くもんやという前提があって、チームが動いてくれてましたからね。すごく動きやすかったし、僕自身の調子も良かったから、ゴールを決めれたんやと思います。僕の持ち味が出たゴールやったし、あの左足の感触はいまでも残ってる。あれで逆転したわけやから、喜びすぎたかも。ホンマ、無我夢中でしたよ」
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