「これで行こうと決めたらそれ」
軽妙な語り口で報道陣を沸かせた前節・大宮戦後とは異なり、不満の色を浮かべた大久保嘉人の表情は少しばかり尖って見えた。2試合連続のハットトリックはおろか、ひとつのゴールも奪えず、降格圏に低迷する仙台と引き分けたのだから無理もないだろう。
ただ、ノーゴールに終わり、勝てなかったものの、この仙台戦でも大久保が素晴らしいプレーで試合を動かしていたのは間違いない。
ピッチ脇の広告ボードを蹴って破損させたことによる2試合の出場停止は、大久保にとって結果的にちょうどいい休息の機会となった。今季はリーグ戦、ACL、ワールドカップと開幕からフル稼働で、そのため身体がサッカーに対して拒絶反応を示す直前までいっていたのだ。
大久保が、原因不明の体調不良に襲われている事実が明らかになったのは8月初旬。19節の浦和戦を前にしてのことだった。
「ダッシュができないし、踏ん張れない」
と自覚症状を訴えると、すぐに血液検査を受け、練習を回避した。
ただ、その後も試合には出場し、しかも普段と変わらないパフォーマンスを見せていた。実際、浦和戦ではファインゴールを決めている。体調不良は、にわかには信じがたかったが、本調子ではない大久保にとって2試合の出場停止は渡りに船だった。
英気を養った大久保は身体のキレを取り戻す。そして、出場停止明けの大宮戦でハットトリックをマーク。自身10年ぶりの1試合3発だった。
仙台戦は前述のように無得点だったものの、26節を終えて15ゴールの大久保は、得点ランクのトップに立つ。2年連続の得点王は、もちろん射程圏内だ。ゴールについて話が及んだのは、仙台戦の2日前の取材時だった。フィニッシュのパターンが増えていますねと、そう振られた大久保は、「どうだろうね、たまたまじゃないですか。とくに意識はしてないです」と言いながらも、
「どこからでもシュートを狙おうとは思ってます。パスを出そうか、シュートを打とうか、アイデアが出てくるので、最後(の局面で)落ち着けているのかもしれない」
と内面の充実を示唆した。
その落ち着きは川崎に移籍して生まれたものか。その問いにはこう答えている。
「昔から、シュートするときはアイデアが出てきてたんですが、シュートを打つまでに迷っていたんですよね。どれにしようかと。そうするとキーパーに詰められて、外してしまうことが多かった。でもいまは、どれを選択するにも自信を持てていて、これで行こうと決めたらそれ。そうして振り抜くから、それがいいんだと思う。迷わないように意識してます。迷ったら外すので」
これは、風間八宏監督が常々口にしてきた「技術は意識の中にある」という言葉に通じる発言だろう。身につけた技術を必要な場面で発揮できるかは、その瞬間の意識に左右される――。それが風間監督の真意だ。
大久保は川崎移籍後に、「上手くなった」と述べている。技術的な進歩だけでなく、技術を使いこなす「意識の改善」が、そこには含まれていたはずだ。31歳にしてキャリア初の得点王に輝き、今季も得点ランクのトップに立つ大久保の進化を見るにつけ、「意識の改善」の重要性を思い知る。
体調不良の事実が判明した後、大久保がこの件について黙して語らなかったのは、代表招集への影響を懸念したからでもある。進化を続ける32歳は、「日本代表」にあくまでこだわるつもりだ。
取材・文:江藤高志(フリーライター)
ただ、ノーゴールに終わり、勝てなかったものの、この仙台戦でも大久保が素晴らしいプレーで試合を動かしていたのは間違いない。
ピッチ脇の広告ボードを蹴って破損させたことによる2試合の出場停止は、大久保にとって結果的にちょうどいい休息の機会となった。今季はリーグ戦、ACL、ワールドカップと開幕からフル稼働で、そのため身体がサッカーに対して拒絶反応を示す直前までいっていたのだ。
大久保が、原因不明の体調不良に襲われている事実が明らかになったのは8月初旬。19節の浦和戦を前にしてのことだった。
「ダッシュができないし、踏ん張れない」
と自覚症状を訴えると、すぐに血液検査を受け、練習を回避した。
ただ、その後も試合には出場し、しかも普段と変わらないパフォーマンスを見せていた。実際、浦和戦ではファインゴールを決めている。体調不良は、にわかには信じがたかったが、本調子ではない大久保にとって2試合の出場停止は渡りに船だった。
英気を養った大久保は身体のキレを取り戻す。そして、出場停止明けの大宮戦でハットトリックをマーク。自身10年ぶりの1試合3発だった。
仙台戦は前述のように無得点だったものの、26節を終えて15ゴールの大久保は、得点ランクのトップに立つ。2年連続の得点王は、もちろん射程圏内だ。ゴールについて話が及んだのは、仙台戦の2日前の取材時だった。フィニッシュのパターンが増えていますねと、そう振られた大久保は、「どうだろうね、たまたまじゃないですか。とくに意識はしてないです」と言いながらも、
「どこからでもシュートを狙おうとは思ってます。パスを出そうか、シュートを打とうか、アイデアが出てくるので、最後(の局面で)落ち着けているのかもしれない」
と内面の充実を示唆した。
その落ち着きは川崎に移籍して生まれたものか。その問いにはこう答えている。
「昔から、シュートするときはアイデアが出てきてたんですが、シュートを打つまでに迷っていたんですよね。どれにしようかと。そうするとキーパーに詰められて、外してしまうことが多かった。でもいまは、どれを選択するにも自信を持てていて、これで行こうと決めたらそれ。そうして振り抜くから、それがいいんだと思う。迷わないように意識してます。迷ったら外すので」
これは、風間八宏監督が常々口にしてきた「技術は意識の中にある」という言葉に通じる発言だろう。身につけた技術を必要な場面で発揮できるかは、その瞬間の意識に左右される――。それが風間監督の真意だ。
大久保は川崎移籍後に、「上手くなった」と述べている。技術的な進歩だけでなく、技術を使いこなす「意識の改善」が、そこには含まれていたはずだ。31歳にしてキャリア初の得点王に輝き、今季も得点ランクのトップに立つ大久保の進化を見るにつけ、「意識の改善」の重要性を思い知る。
体調不良の事実が判明した後、大久保がこの件について黙して語らなかったのは、代表招集への影響を懸念したからでもある。進化を続ける32歳は、「日本代表」にあくまでこだわるつもりだ。
取材・文:江藤高志(フリーライター)