慢心を許さぬ用心深さと冷静さを胸に。
「やっぱり、ちょっと違いますね。今日は暑かったというか、湿気がすごかった。明日の試合では、クレバーに動かないといけない。試合展開を読んで攻撃参加のタイミングを図らないと、すぐにガス欠になってしまうから。相手がパワーを出してきたときに、しっかりと対応できるペース配分を考えないと。(本田)圭佑くんとしっかりとコミュニケ―ションをとりたいと思います」
試合前日の公式練習を終えた酒井高徳は、初戦が行なわれたニューカッスルと違うブリスベンの気候を踏まえてイラク戦について語った。自身が先発としてピッチに立つという確信が、彼の思考を明確にし、ゲームへのイメージを掻き立てている。
内田の参加が見送られたことで、アジアカップを先発組の一員として過ごしている酒井。右サイドでコンビを組む本田をはじめ、主力組との会話の量は必然的に増え、日本代表としての実感が彼の中で満ちている。
U-16日本代表で日の丸を初めてつけ、それ以降も各年代の代表として戦ってきた。2010年1月に代表初選出。そして、南アフリカ・ワールドカップにはバックアップメンバーとして帯同。4年前のアジアカップではメンバー入りを果たしたが、腰痛のために離脱している。
ドイツ人の母を持つ酒井は、そのフィジカルの強さで高い評価を受けてきた。両サイドでのプレーができることや11年末に移籍したシュツットガルトでの経験、そして、どんな立場であっても献身的な姿勢を保てる性格によって、代表に欠かせない存在となった。しかし、長友、内田という高い壁が彼の前に立ちはだかっているのも事実だ。ブラジル・ワールドカップ終了までに出場した試合はわずか12試合にとどまっている。
「やっぱり、チャンピオンズ・リーグなどを戦ってきた篤人くんの経験は他の選手とは違うなと思いました。試合前にもまったく動じる様子がなった。そういう経験は、頑張ったらどうにかなるものではないのかもしれない」
ブラジルでの最後の会見で、正直に自胸の内を明かした酒井の姿は、とても印象深かった。
アギーレジャパン始動以降の親善試合では、6試合すべてに出場して5試合で先発を飾った。もちろん、内田や長友の負傷がチャンスをもたらしたのかもしれない。それでも、新指揮官との相性の良さを酒井は感じている。
「球際の部分はガツガツ行かなきゃいけないとか、気持ちを出すプレーを監督が求めているのが伝わってくる。そこは自分の得意なところでもあるので、それを評価してもらっているなと感じてますね。激しいプレーというか、荒いのではなく、しっかりとボールを奪うプレーは、練習中から常に求められているので、自分には合っています」
そんな手応えを掴みながら迎えるアジアカップで巡ってきた先発の座。自然と気持ちも高まった。初戦のパレスチナ戦では珍しく緊張したが、そこで得た課題や修正点をチームメイトと共有し、自問自答の時間を経て、次の試合で確かめる。ピッチ上で手にした体験は、そうして初めて経験と呼ぶにふさわしい力になる。若い選手の試合起用は重要だが、継続的な起用こそが選手の成長を促すのだ。
「こういう大きな大会に出たことも少なかったし、長い期間、出場できることもなかった。だから今はただ試合に出るだけじゃなくて、チームも自分も良くしていかなくちゃいけないと考えられる。1試合1試合、本当に成長しなくちゃと思って取り組めている自分がいますね」
まだ、初戦を戦ったに過ぎず、その試合すら相手のレベルを考えると「参考にはならない」と話す酒井は、アジアカップを戦うことで自信を得て、同時にライバルたちの武器を再確認するに違いない。
「佑都くんや篤人くんの凄さは、僕が誰よりも一番知っています。目標だし、追い越したい。でも同時に、僕は『酒井高徳だ』とも考えています。ふたりにはない僕の良さで負けるわけにはいかない。ずっと、ふたりが試合に出ているのをベンチで眺めてきました。でも、いつまでもそういう立場ではいけない。強い国、強いチームは、どんどん若い選手が出てきて、出場機会を掴んでいる。日本も日常的に下からもっと選手が出てこないとレベルアップはしないと思うんです。そのなかのひとりにならなければ、という想いでやってきました。それはキヨくん(清武弘嗣)もそうだし、ブラジルに行った自分たちの世代の選手はそういう自覚を持ってやってきたし、これからもやっていかなくちゃならない」
絶対的な存在となっている選手をリスペクトしながらも、虎視眈々とチャンスを待つ。そのために必要なのは、熱い闘志ばかりではない。チーム状況に応じて自身の立場を理解し、現実を見極める力が鍵となる。
酒井にとって大きなチャンスとなるアジアカップ。そこで成果を出し、いかに成長できるか。ライバルの存在を意識するよりも、その場所で、自分自身を見つめることが大切なのかもしれない。
「優勝まで、ひとつずつ階段を登って行くしか道はない」
追いかける側はチャンスを掴むと勢いに乗れる。しかし、その勢いに身を任してしまっては、足下をすくわれることもある。連日、多弁に記者の質問に答える酒井からは、慢心を許さない用心深さと冷静さを感じる。バックアッパーとして過ごしてきた時間もまた、酒井の武器になるかもしれない。
好機到来だからこそ、油断は禁物。
そのことを酒井はその経験で学んでいるに違いない。
取材・文:寺野典子
試合前日の公式練習を終えた酒井高徳は、初戦が行なわれたニューカッスルと違うブリスベンの気候を踏まえてイラク戦について語った。自身が先発としてピッチに立つという確信が、彼の思考を明確にし、ゲームへのイメージを掻き立てている。
内田の参加が見送られたことで、アジアカップを先発組の一員として過ごしている酒井。右サイドでコンビを組む本田をはじめ、主力組との会話の量は必然的に増え、日本代表としての実感が彼の中で満ちている。
U-16日本代表で日の丸を初めてつけ、それ以降も各年代の代表として戦ってきた。2010年1月に代表初選出。そして、南アフリカ・ワールドカップにはバックアップメンバーとして帯同。4年前のアジアカップではメンバー入りを果たしたが、腰痛のために離脱している。
ドイツ人の母を持つ酒井は、そのフィジカルの強さで高い評価を受けてきた。両サイドでのプレーができることや11年末に移籍したシュツットガルトでの経験、そして、どんな立場であっても献身的な姿勢を保てる性格によって、代表に欠かせない存在となった。しかし、長友、内田という高い壁が彼の前に立ちはだかっているのも事実だ。ブラジル・ワールドカップ終了までに出場した試合はわずか12試合にとどまっている。
「やっぱり、チャンピオンズ・リーグなどを戦ってきた篤人くんの経験は他の選手とは違うなと思いました。試合前にもまったく動じる様子がなった。そういう経験は、頑張ったらどうにかなるものではないのかもしれない」
ブラジルでの最後の会見で、正直に自胸の内を明かした酒井の姿は、とても印象深かった。
アギーレジャパン始動以降の親善試合では、6試合すべてに出場して5試合で先発を飾った。もちろん、内田や長友の負傷がチャンスをもたらしたのかもしれない。それでも、新指揮官との相性の良さを酒井は感じている。
「球際の部分はガツガツ行かなきゃいけないとか、気持ちを出すプレーを監督が求めているのが伝わってくる。そこは自分の得意なところでもあるので、それを評価してもらっているなと感じてますね。激しいプレーというか、荒いのではなく、しっかりとボールを奪うプレーは、練習中から常に求められているので、自分には合っています」
そんな手応えを掴みながら迎えるアジアカップで巡ってきた先発の座。自然と気持ちも高まった。初戦のパレスチナ戦では珍しく緊張したが、そこで得た課題や修正点をチームメイトと共有し、自問自答の時間を経て、次の試合で確かめる。ピッチ上で手にした体験は、そうして初めて経験と呼ぶにふさわしい力になる。若い選手の試合起用は重要だが、継続的な起用こそが選手の成長を促すのだ。
「こういう大きな大会に出たことも少なかったし、長い期間、出場できることもなかった。だから今はただ試合に出るだけじゃなくて、チームも自分も良くしていかなくちゃいけないと考えられる。1試合1試合、本当に成長しなくちゃと思って取り組めている自分がいますね」
まだ、初戦を戦ったに過ぎず、その試合すら相手のレベルを考えると「参考にはならない」と話す酒井は、アジアカップを戦うことで自信を得て、同時にライバルたちの武器を再確認するに違いない。
「佑都くんや篤人くんの凄さは、僕が誰よりも一番知っています。目標だし、追い越したい。でも同時に、僕は『酒井高徳だ』とも考えています。ふたりにはない僕の良さで負けるわけにはいかない。ずっと、ふたりが試合に出ているのをベンチで眺めてきました。でも、いつまでもそういう立場ではいけない。強い国、強いチームは、どんどん若い選手が出てきて、出場機会を掴んでいる。日本も日常的に下からもっと選手が出てこないとレベルアップはしないと思うんです。そのなかのひとりにならなければ、という想いでやってきました。それはキヨくん(清武弘嗣)もそうだし、ブラジルに行った自分たちの世代の選手はそういう自覚を持ってやってきたし、これからもやっていかなくちゃならない」
絶対的な存在となっている選手をリスペクトしながらも、虎視眈々とチャンスを待つ。そのために必要なのは、熱い闘志ばかりではない。チーム状況に応じて自身の立場を理解し、現実を見極める力が鍵となる。
酒井にとって大きなチャンスとなるアジアカップ。そこで成果を出し、いかに成長できるか。ライバルの存在を意識するよりも、その場所で、自分自身を見つめることが大切なのかもしれない。
「優勝まで、ひとつずつ階段を登って行くしか道はない」
追いかける側はチャンスを掴むと勢いに乗れる。しかし、その勢いに身を任してしまっては、足下をすくわれることもある。連日、多弁に記者の質問に答える酒井からは、慢心を許さない用心深さと冷静さを感じる。バックアッパーとして過ごしてきた時間もまた、酒井の武器になるかもしれない。
好機到来だからこそ、油断は禁物。
そのことを酒井はその経験で学んでいるに違いない。
取材・文:寺野典子