確かに、稲垣はもちろんのこと、工藤壮人もフェリペ・シウバにしても、得点能力や攻撃構築能力の高さはもちろんのこと、守備に回った時の積極性や運動量は抜群だ。
特に広島史上最高のファンタジスタになる可能性を秘めたフェリペ・シウバは、そのスタイルから守備の不安も抱かれがちだが、そのイメージは払拭してほしい。タイで行なわれたトヨタプレミアカップでのムアントン・U(タイ王者)戦では、ボールを失った後も激しくプレスを掛けて奪い返し、見事な展開から工藤のゴールを導いた。山口戦でも激しいプレスからボールを奪い、ショートカウンターに直結させた。
一方で、前への意識が強くなりすぎてリスクマネジメントが難しくなり、カウンターから失点を喫する場面も決して少なくない。山口戦の失点も「自分の危機管理が甘かった」とGK廣永遼太郎は唇を噛んだ。森保監督も「J1の公式戦で、全ての時間帯にプレスをかけるわけにはいかない。今までのやり方との使い分け、相手が嫌がる守備を構築したい」と語る。
これまで「Jで最も成熟したチーム」と言われてきた広島だが、今季はかなりの部分で変化する。その変化は、プレシーズンではポジティブな面もネガティブなところでも現れた。開幕まで残り1週間を切り、さらに向上させるためには、1か月に及ぶ長いキャンプの疲れをとると同時に、さらなる質の向上を図らねばならない。そのハンドリングを巧みに行ない、「新しい広島」の魅力を表現するために、森保監督は全力を尽くす。
取材・文:中野和也(紫熊倶楽部)