シーソーゲームは残り4分の“事故”のようなゴールで決着した。
――サンパウロはリラックスしていた。なぜサンパウロには余裕があったのか。テレ・サンターナとカペッロの両監督の置かれていた立場だ。ミランが敗れた場合、カペッロには“解任”の危険もある。決して安定政権ではないのだ。
これに対しサンパウロは、サンターナの留任がほぼ内定。滞日中、日本代表の監督に就任するとの噂もあったが、交渉は決裂し、サンターナは引き続きサンパウロの指揮を執ることになった。サンターナは選手からの信望が厚い。残留の報を耳にした時、各選手は大喜びだった。――
心身の充実度でサンパウロがミランを上回っていたようだが、12月12日の昼にキックオフされた国立競技場での一戦は、ミランの攻勢で幕を開けた。
――前半のサンパウロは守りに徹していた。ゴールを狙っているフシは感じられなかった。しかし19分、初めて放ったシュートで先制する。アンドレが大きくサイドチェンジ。カフーに渡った。このブラジル代表の名手は、グラウンダーのセンタリングをゴール前に配した。これをパリーニャがダイレクトで合わせ、1点のリードを奪ったのである。
それにしても、ミランの動きは悪い。いや、重い。斬れ味がないのだ。時差ボケとか過密スケジュールなどという言い訳は通用しない。サンパウロも同じ条件だ。やはり、前述したマイナス材料が肉体的、そして精神的なダメージとなっているようだ。
首脳陣が“秘密兵器”と期待し、このところ好調の波に乗っていたラドチオウは存在感が薄く、パパンの出来も芳しくなかった。この2トップが敗因のひとつでもある。同じタイプなのだ。もし、サビチェビッチを起用していたら……。試合後、カペッロは「UEFAとの連絡ミスで、サビチェビッチを使うことができなかった」とコメントしている。
しかし、詭弁だ。ミランはセリエAのルールにのっとり、トヨタカップでも3人の外国人選手を起用する予定だった。外国人枠が設けられていないにもかかわらず、である。――
試合はサンパウロのペースで進んだが、後半開始から3分、ミランはダニエレ・マッサーロのゴールで追いつく。後方からのハイボールをダイレクトで合わせるという難易度の高いシュートだった。
対するサンパウロは59分、レオナルドが強引に左サイドを突破してゴール前にグラウンダーでクロスを入れると、逆サイドにフリーで待ち受けていたトニーニョ・セレーゾ(現鹿島アントラーズ監督)が難なく詰めて再び勝ち越しに成功する。
しかしミランは81分、ロベルト・ドナドーニの縦パスを右サイドのマッサーロがバックヘッドで器用に中央へ折り返し、これをジャンピエール・パパンが頭で合わせてゴールネットを揺らした。2-2。欧州王者の意地を見せた同点劇だった。
ところが……。
――2-2になったとき、誰もが延長を信じていた。試合終了後の記者会見で、両監督も「(延長戦を)用意していた」と語っている。だが、フィナーレは突然訪れた。終了4分前のことである。
トニーニョ・セレーゾのパスが、ミランDFラインの頭上を越えた。走るミューレル。コースに入ったバレージ。あとはGKロッシがボールを抑えるだけにみえた。
ロッシの突進をかわすべく、ミューレルは軽くジャンプした。不要な接触で身体を痛めては元も子もない。延長が迫っているのだ。しかもミューレルは、“もう一度セリエAでプレーしたい”と願っている。ここまで何もしていない。動きを封じられていた。延長に夢をかけても、決して不思議ではなかった。
しかし、幸運の女神は延長まで待てなかったようだ。ミューレルの右カカトは、彼が無意識のうちにボールとコンタクトしていた。サンパウロにとっては緩やかに、ミランにすればやけに速く、ボールはネットに吸い込まれていった。
「あれは事故だ」
カペッロは短い言葉で片づけた。だが、無敵を誇っていた当時のミランなら、事故にもあわなかっただろう。また、遭遇したとしても致命傷にはならなかった。それが強さでもあったが……。――
これに対しサンパウロは、サンターナの留任がほぼ内定。滞日中、日本代表の監督に就任するとの噂もあったが、交渉は決裂し、サンターナは引き続きサンパウロの指揮を執ることになった。サンターナは選手からの信望が厚い。残留の報を耳にした時、各選手は大喜びだった。――
心身の充実度でサンパウロがミランを上回っていたようだが、12月12日の昼にキックオフされた国立競技場での一戦は、ミランの攻勢で幕を開けた。
――前半のサンパウロは守りに徹していた。ゴールを狙っているフシは感じられなかった。しかし19分、初めて放ったシュートで先制する。アンドレが大きくサイドチェンジ。カフーに渡った。このブラジル代表の名手は、グラウンダーのセンタリングをゴール前に配した。これをパリーニャがダイレクトで合わせ、1点のリードを奪ったのである。
それにしても、ミランの動きは悪い。いや、重い。斬れ味がないのだ。時差ボケとか過密スケジュールなどという言い訳は通用しない。サンパウロも同じ条件だ。やはり、前述したマイナス材料が肉体的、そして精神的なダメージとなっているようだ。
首脳陣が“秘密兵器”と期待し、このところ好調の波に乗っていたラドチオウは存在感が薄く、パパンの出来も芳しくなかった。この2トップが敗因のひとつでもある。同じタイプなのだ。もし、サビチェビッチを起用していたら……。試合後、カペッロは「UEFAとの連絡ミスで、サビチェビッチを使うことができなかった」とコメントしている。
しかし、詭弁だ。ミランはセリエAのルールにのっとり、トヨタカップでも3人の外国人選手を起用する予定だった。外国人枠が設けられていないにもかかわらず、である。――
試合はサンパウロのペースで進んだが、後半開始から3分、ミランはダニエレ・マッサーロのゴールで追いつく。後方からのハイボールをダイレクトで合わせるという難易度の高いシュートだった。
対するサンパウロは59分、レオナルドが強引に左サイドを突破してゴール前にグラウンダーでクロスを入れると、逆サイドにフリーで待ち受けていたトニーニョ・セレーゾ(現鹿島アントラーズ監督)が難なく詰めて再び勝ち越しに成功する。
しかしミランは81分、ロベルト・ドナドーニの縦パスを右サイドのマッサーロがバックヘッドで器用に中央へ折り返し、これをジャンピエール・パパンが頭で合わせてゴールネットを揺らした。2-2。欧州王者の意地を見せた同点劇だった。
ところが……。
――2-2になったとき、誰もが延長を信じていた。試合終了後の記者会見で、両監督も「(延長戦を)用意していた」と語っている。だが、フィナーレは突然訪れた。終了4分前のことである。
トニーニョ・セレーゾのパスが、ミランDFラインの頭上を越えた。走るミューレル。コースに入ったバレージ。あとはGKロッシがボールを抑えるだけにみえた。
ロッシの突進をかわすべく、ミューレルは軽くジャンプした。不要な接触で身体を痛めては元も子もない。延長が迫っているのだ。しかもミューレルは、“もう一度セリエAでプレーしたい”と願っている。ここまで何もしていない。動きを封じられていた。延長に夢をかけても、決して不思議ではなかった。
しかし、幸運の女神は延長まで待てなかったようだ。ミューレルの右カカトは、彼が無意識のうちにボールとコンタクトしていた。サンパウロにとっては緩やかに、ミランにすればやけに速く、ボールはネットに吸い込まれていった。
「あれは事故だ」
カペッロは短い言葉で片づけた。だが、無敵を誇っていた当時のミランなら、事故にもあわなかっただろう。また、遭遇したとしても致命傷にはならなかった。それが強さでもあったが……。――