【ルーツ探訪】太田宏介の“知られざる感動秘話”。ゴールなき母親孝行

カテゴリ:Jリーグ

白鳥和洋(サッカーダイジェスト)

2015年12月16日

「感謝を忘れたら俺は終わり」。その背景には“師匠”の言葉が。

ハリルホジッチ体制下の日本代表にも招集。2015年3月31日のウズベキスタン戦では岡崎の得点をアシストした。(C)SOCCER DIGEST

画像を見る

 FC東京では不動のレギュラーとして活躍し、昨季のJリーグではベストイレブンに初めて選ばれた。そして日本代表として2015年1月のアジアカップに参戦し、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の初陣にも招集されるなど、宏介は日本を代表する左SBに成長を遂げた。

 金銭的にも裕福になったが、天狗になっている様子は微塵もない。兄の大哉は、三浦淳寛から贈られた言葉が弟のキャリアに大きな影響を与えたという。

「横浜FCを離れる時に、『自信と過信は紙一重』とアツさんに言われたそうです。弟はその言葉をとても大事にしていて、私とも『過信しないようにしよう』と常に確かめ合っています」

 どんなに有名になっても、初心を忘れない。だから宏介は、試合の後、ファン・サポーターに向かって誰よりも深くお辞儀をする。

「弟にこう言ったことがあります。『ファンあっての仕事、周りにいる方あってのサッカー人生なんだから、どんな時でも感謝の気持ちをみんなに示せ』と」(大哉)

 文字通り父親としてアドバイスしてくれた兄の想いを、宏介はしっかりと理解し、受け止めている。

「俺の人生に携わってくれた方への感謝の気持ちは忘れていません。行動でも示しているつもりです。それがなくなったら、俺は終わりです。だから、満足することなく常に上を目指す。夢を与えられるプレーヤーになりたいです」

 宏介は人気プロサッカー選手、そして大哉はブランド品売買などをする株式会社『ダイヤコーポレーション』の代表取締役。「母親に楽をさせたい」と誓い合った息子たちが荒波に揉まれながらも頼もしく成長してくれて、母・祐子は「もう十分に幸せです」と頬を緩める。それでも宏介は、母親に「まだまだでしょ。満足してんじゃねーよ」と発破を掛けるのだ。

「兄とも互いに言っています。『もっと頑張ろう』って。母親孝行にゴールはないですから」

 兄・大哉も追随する。

「母親孝行ができているかどうかを決めるのは、私でも宏介でもありません。母親が決めることです。だから、これからもふたりで母親を支えていく。ひと通りやったから終わりではなく、やり続けることにこそ意味があるのです」

 熱い想いを口にする息子たちを余所に、母・祐子は意外にものほほんとしている。

「テレビ番組とかでよく宏介が『うちは貧乏だった』と言っているのですが、それを観ると『嘘つけ、どこが貧乏だったのよ。あのアパート時代だけ、短い期間だったじゃない』って反論したくなるんですよ(笑)。

 どうも男の子は母親が苦労しているように見えるんでしょうね。自分を犠牲にして育ててくれた存在と、大哉も宏介もそう思ってくれているのかもしれません。だから今は、『そういうことにしておこうかな』と。最近は『そんな苦労してないよ』と否定しないで、なにも言わずに笑って済ませています(笑)」

 母親が明るくなってくれたことがなにより嬉しいという宏介は、年が明けると寒川神社に兄と一緒に初詣に行く。

 絵馬に“飛躍し続ける”という文字を書くために──。

 その文字にはこんな想いが込められている。現状維持は衰退と同じ、決して満足せず常に上を見る。それは宏介にとって生涯揺らぐことのない、永遠のテーマなのである。<文中敬称略>
 
取材・文:白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集部)
 
【関連記事】
【検証|鳥栖戦】歓喜のち悲鳴。なぜFC東京の守備ブロックは突如、決壊したのか
【鳥栖】「出てくるなよ…」。GK権田が涙腺を緩ませて語った“戦いたくなかった盟友”
【タイ戦|戦評】ハリル采配に疑問。なぜ“臆病に映ったCB”を交代させなかったのか
権田に伸し掛かった、想像を絶するプレッシャー。味スタは“複雑な場所”だった
FC東京サポーターの前で号泣…。権田が“その心情”を激白
スポーツ関心度ランクでサッカーは何位? 野球に次いで堂々2位に食い込んだのは意外にも
美女揃い!Jクラブ応援番組のMC&レポーターを一挙紹介

サッカーダイジェストTV

詳細を見る

 動画をもっと見る

Facebookでコメント

サッカーダイジェストの最新号

  • 週刊サッカーダイジェスト 王国の誇りを胸に
    4月10日発売
    サッカー王国復活へ
    清水エスパルス
    3年ぶりのJ1で異彩を放つ
    オレンジ戦士たちの真髄
    詳細はこちら

  • ワールドサッカーダイジェスト 永久保存版!
    4月17日発売
    プレミアリーグ50年史
    キック&ラッシュの時代から
    世界の頂点へと到達!
    “英国式”の伝統と栄光に浸る
    詳細はこちら

  • 高校サッカーダイジェスト 完全保存版
    1月17日発売
    第103回全国高校サッカー選手権
    決戦速報号
    前橋育英が7年ぶりの戴冠
    全47試合&活躍選手を詳報!
    詳細はこちら

>>広告掲載のお問合せ

ページトップへ